第17回「季節を感じて描く力を」
春・夏・秋・冬。季節ごとに1回、教室を飛び出して野外で授業を行ってきたこの1年間。今回は秋と冬の課外授業の様子をお伝えします。
〈秋〉
「ドングリを みつけたのなら 秋が来た」 「かれ葉をね バリバリふむと 音がなる」「秋の空 ドングリてらす キラキラと」「ドングリが ぽかぽかぼうし かぶってる」 「二つ子の 赤い実みつけた 秋の昼」・・・。すがすがしい秋空の下、今度はみんなで「俳句」に挑戦です。
「五・七・五」というわずか十七音の言葉の中に思いを込める俳句。日本語の奥深さと美しさを実感します。今回は、多少字余りでも字足らずでもいいから、とにかく思ったこと・感じたことを楽しみながら十七音に乗せてみようと呼びかけました。初めは少し戸惑っていましたが、次第に指を折り折り、自由に詠み始めました。そして、俳句を書くためのオリジナルのフレームを、一人一人に作ってもらいました。台紙の上に、自由に「秋の宝物」をボンドで貼ってデザインします。ドングリ、松ぼっくり、紅葉した葉っぱ、色づいた小さな木の実・・・。秋の森には、宝物がいっぱいです。伝えたい「秋」にぴったりの素敵なフレームが完成しました。授業が終わったあとも、どんぐり拾いに夢中になる子ども達がとても微笑ましかったです。
〈冬〉
「こんなに美しい富士山が見える美術館は、日本中さがしてもここしかないんだよ。」 美術館の先生が指差した窓の向こうには、真っ白な雪をかぶった美しい富士山が、堂々とこちらを見下ろしていました。季節はあっという間に巡り、冬を迎えました。
一月の終わり。冷たい北風が吹く中、みんなで山梨県立美術館を訪れました。今日は学芸員の先生のレクチャーを受けながら、美術館の作品をじっくり鑑賞します。先生方がトトロ生のために組んでくださった特別ツアーです。
まず、美術館をまわるまえにワークショップ室でいろんなお話を聞きました。これから見る「絵巻物」や「掛け軸」は、どのように保管するのか、どのように広げるのか・・・といったことを実践しながら教えてもらいます。丁寧に丁寧に絵に触れる子どもたちの表情が印象的でした。
まずは有名なミレーの作品。「何をしている絵なんだろう?」「季節はいつかな?」「なんで落穂を拾うのかなあ?」・・・。先生方の投げかけに、子ども達は目をキラキラさせて答えていきます。美術館は静かにしなければならない場所、といつも言われてしまうのですが、こんなふうに議論をしながら絵を見られる機会を持てて本当に幸せでした。絵を見て思うこと、感じることをこんなふうに互いに話し合うことは、とても素敵なことだと思ったからです。
特別展「美しきアジア玉手箱」は圧巻でした。世界有数の東洋美術コレクションを所蔵するシアトル美術館から、国宝級の日本美術が里帰りしています。「壊さないように、よごれないように、大事に大事にシアトルから借りてきたんだよ。」という先生の言葉に子ども達は納得した様子でした。作者不明の「からす図」の前では、「この形のカラスはどこにいる?」とクイズを出され、子ども達は夢中になってからすの姿を追っていました。
私たち大人はついつい、「絵はわからないから・・・」と言ってしまいがちです。でも、何もわからなくても大丈夫。一枚の絵をじっくり見て、楽しむことができればそれで十分なんだと改めて思いました。
「また美術館へ来て、大好きな絵を見つけてね!」
そう子ども達に話してくださった学芸員の先生の言葉が印象的です。 今日、子ども達は大好きな一枚、大好きな作品に出逢ったかもしれません。何かを感じて、考えたかもしれません。皆さんも、ぜひ、お子様と一緒に美術館に出かけてみてください。
そしてその翌週。子ども達と一緒に河原へ冬さがしに出かけました。思いっきり深呼吸すると、冬の風は冷たすぎて、鼻がつーんと痛くなります。そこで、たくさんの「冬」を見つけました。まぶしいくらいに澄みきった青空。真っ白い雪をかぶった富士山、石を投げてもびくともしない、凍てついた川。みんなで歓声をあげながら、競うように川の氷を割ろうとしましたが、その氷の厚さは半端ではありませんでした。自然がくれる贈り物は偉大です。
「自然が繰り返すリフレインー夜の次に朝が来て、冬が去れば春になるという確かさーの中には、限りなくわたしたちをいやしてくれる何かがあるのです。」これは、農薬問題を記した名著「沈黙の春」で有名な、生物学者レイチェル・カーソンが最後に残した作品「センス・オブ・ワンダー」の中にある一節です。この地球上で、どんなに無益な争いが起こっていても、自然界は絶えずこの当たり前の現象を、繰り返してくれています。そして多くの喜びや驚きを私たち人間に与えてくれます。私たちは、そのことにもっともっと感謝の気持ちを持つべきなのではないでしょうか。
物語文、描写文、意見文、読書感想文・・・。教室ではいろいろな課題に取り組んでいます。でも、テクニックだけでは人の心に響く文章は書けません。子どもたちは、森を探検しながら、季節が確実に移り変わっていることを感じています。「感じる心」さえあれば、私たちを取り巻くすべてのものが何かを書くための題材となり得るのです。季節の変化や自然の姿に、感動したり、驚いたりしながら、これからもさまざまな言葉を紡いでいってほしいと願っています。
2010.6.10