第18回「小さな行動」を起こすということ

 

「住宅地にクマ出没」「クマの目撃相次ぐ」…。
暑さがぐっとやわらいだ10月に入ってから、テレビや新聞でこんなニュースを度々目にするようになりました。県内では希少動物の減少に危機感を持つ保護団体により、野山に再びクマを返す「放獣」を促している一方で、クマによる農作物の被害も深刻で殺処分を求める声も多いのだそうです。
 
そもそも、どうしてクマが人間の住む場所へやってきてしまうのでしょうか?
 
そこには様々な複雑な問題があります。まずはクマたちの食べものが不足していること。今年は猛暑の影響で、木の実などの食料が実らなかったようです。どうしてこんなに猛暑が続いたのでしょう。そこには「地球温暖化」という問題がかくれています。また、住宅や高速道路の建設で、森や山を切り開いた結果、動物たちのすみかが奪われつつあることも事実です。こうやって一つ一つの原因を追っていくと、最後にたどりつくのは「人間」。クマが出没するのは、人間の行為によって引き起こされた問題の一つなのです。
 
作文倶楽部の4年生クラスでは、この1年間「環境問題」を意識した物語作りに取り組んできました。海の問題、山の問題、土の問題、空気の問題…。図鑑や絵本、ノンフィクションの本を広げて、みんなでその問題を考えます。しかし、調べたことを箇条書きにまとめるわけではありません。調べてわかったこと、考えたこと、解決策、自分の願いを「物語」の中にメッセージとして組み、ひとつの作品を作り上げるのです。
 
物語のタイトルは「不思議な切符」。真っ白な紙に一人ひとりが思い思いの「切符」をデザインします。
「学校の砂場から海の底のイルカの家行き。 8月4日 10時発 。」
「家⇒ふくろうの森駅  1号車  33番」
その切符を手に入れたきっかけはさまざまです。カブトムシをとりに森に入ったら、木の根っこに落ちていた。海で遊んでいたら、切符が入ったビンが流れてきた・・・。その切符を持って、森や海へ冒険に出かけそこでさまざまな生き物や植物に出会い、環境問題について考えていく・・・という構成です。
 
子ども達は、この作品作りを通して、私たちの身の回りにある自然や動物たちが危機に直面していること、そしてその危機を作っているには自分たちであること、だけどそれを救える、変えられるのも自分たち人間であることを知ります。
 
これまで、たくさんの「不思議な切符」の物語が完成しました。海の汚染の問題を描いた子は、洗剤を使って食器を洗うのをやめようと考えました。空気の汚染の問題を描いた子は、ごみをできるだけ減らしたい、そのために好き嫌いせず何でも食べること、無駄なものを買わないことを心に決めました。小さな行動が、明日の地球を少しだけ動かす原動力になります。調べて終わり、ではなく次のアクションにどうつなげていくのか。その「小さな行動」を起こす勇気を持つことが、この作文の最大の目標なのです。
 
数年前、私は故郷の神戸で里山作りに参加していました。
うっそうとした森に入って、木を切り倒し、間伐作業を行います。こうして木を切ることで森に光が入り、木々は生き生き育ち、木陰にいた草花は咲き、小鳥や動物たちが戻ってきます。「木を切る=環境破壊」ではないのです。実際に森に入ってみて、初めて知ることがたくさんありました。
里山の自然は、人間が関わることでとりもどすことができます。すべての生態系をつくる里山を育て、多くの動物たちが捕獲されたり、処分されたりすることなく豊かに暮らせる国でありたいものです。
クマを森に返す、のではなくクマに森を返す、そんな気持ちが大切なのではないでしょうか。

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