第20回 宇宙連詩 ~空を見上げるということ~

空を見上げて、詩を書こう ――。

今年の夏は、子ども達と一緒に宇宙の彼方へ思いを馳せ、言葉を紡ぐ「宇宙連詩」に挑戦しました。

空を見上げて誰かが書いた3行の詩。その詩を受けてまた続きを作る。そうやって国籍・年齢・職業を問わず、宇宙について、地球について、人間について・・・様々な「言葉」がつながってできあがった「詩」を「宇宙連詩」と言うのだそうです。これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)による取り組みで、現在、世界中から集まった言葉で作られた宇宙連詩が、国際宇宙ステーション「きぼう」に打上・保管されています。

この宇宙連詩・山梨版として誕生したのが「星つむぎの歌」です。「みんなで星を見上げ、その想いをつむいで共に歌を作りましょう」という呼びかけで始まったこの企画。全国から世代を超えて寄せられた言葉の数々は延べ2690。詩人の覚和歌子さんが集まった言葉を紡ぎ、財津和夫さんが曲をつけ、平原綾香さんの天界の歌声によって「星つむぎの歌」は2007年1月に誕生しました。

5月の終わり頃。

神秘的な宇宙の写真を子ども達と一緒に見ながら、宇宙連詩の話をしました。「夜、空を見ながら思ったことを三行の詩にしてくる」という教室から初めて出た宿題。流れ星のことを書きたい、お月様のことを書きたい・・・!! 子ども達はみんな目を輝かせてくれました。

しかし、なかなか思うようにはいきませんでした。わくわくしながら空を見上げたのに、ちょうど梅雨に入ったばかりの日本の空は、来る日も来る日もどんより曇った灰色の空。「毎日曇ってて書くことがない。」「何を書いたらいいのかわからない。」そんな声がちらほら出始めます。

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そんな時、あるクラスで提案が。「空を見て、未来のことを想像して書こうよ。」「友達のことを思いながら書こうよ。」・・・。クラスみんなで書いてきた詩を共有した翌週、少しずつ子ども達の言葉に変化が見られるようになりました。はじめは、「雨が降ってる」「灰色の空だ」・・・と今目の前に見える空の景色のことだけを描いていた三行詩が、日を追うごとにぐんぐん変わっていったのです。それは、曇った空のもっと向こうにある宇宙のことだったり、その宇宙から見つめたこの地球のことだったり、みんなの一番近くにいてくれる、大好きな家族や友達のことだったり・・・。そして、まだ出会ったことのない、東北の被災地の人々のこと、自分たちの未来のこと。想いはどんどん広がって、たくさんの言葉が生まれていきました。

そうして、各クラスの詩はオリジナリティにあふれていました。小学1年生は、日々変わっていく空の不思議がおもしろくってたまらない様子。青春真っ盛りの高校生は「テーマは愛だ!」とはりきっています。月に数回しか会えない仲間達との詩。今回は、宇宙連詩のルールである「前の三行の言葉を受けて次につなぐ」ということを必ず守れたわけではありません。ただ、想いを言葉でつないでいこうと子ども達なりに一生懸命考える姿がそこにありました。

そして、小学校1年生から高校3年生まで――。2ヶ月の時間をかけて、ついに各クラスの詩が完成しました。そして、その出来上がった詩を、山梨県立科学館学芸員・高橋真理子さんの素晴らしい解説のあと、科学館のプラネタリウムの星空の下で、朗読をさせてもらいました。

今回の授業は、子ども達の自由で柔らかな言葉の世界に共感してくれた高橋さんの、多大なるご協力のもと実現した企画だったのです。高橋さんは、私達にこんな言葉を下さいました。

「星空は、地球にすんでいるすべての生命、誰もが見ることのできる共通の風景です。素敵なことに、星を見るのは大っきらい!という人はあまりいません。星を見上げていると、吸い込まれそうになったり、不思議な気分になったり、落ち着いたり、自分や家族や友達のことを考えたりしますね。みなさんの詩をみていると、それがとてもよくわかります。私たちが生きていくのに、とても大切なことを、星や空は教えてくれるんだなあ、と思います。それぞれの感じ方も、言葉の書き方も違うけれど、みなさん一人ひとりの言葉に共通した“何か”があるような気がしませんか? それはなんだろう?

人々は、地球に生まれて以来、ずーっと星をみあげてきました。星の動きをみて、時計やカレンダーをつくったり、あの星がいったいどこにあるのか考えたり、星と星を結んで星座をつくったり、そうして、いったいこの世界や宇宙というのはどうなっているのか、どうやってできたのか、と考えてきたのだと思います。おそらくそれは、『わたしは何故生まれてきたのだろう』という、誰もが一度はぶつかる疑問にこたえたい、と思う、人として共通の想いなのだと思います。」

「星」を通して「つなぐ・つくる・つたえる」という任務を全うしている高橋さん。その仕事は科学館内にとどまることなく、学校や大学、病院や被災地にまで至ります。そして高橋さんが魂を込めて制作する、1つ1つのプラネタリウムの番組には、毎回多くの人々が心を揺さぶられるのです。

大舞台での朗読は、緊張で足が震えるほどでした。

でも、紙上の言葉が音声となって伝わる喜びは、何ものにも変え難い素晴らしい体験となりました。

そう、子ども達がその心で感じてくれた通り、この空はどこまでもつながっています。もしかしたら、まだ話したことのない隣の人とも、ふと目に映る植物や動物とも、過去ともこれからやってくる未来とも、つながっているにちがいありません。そんな、一つ一つの出会いを大切に、ステキな大人になっていってほしいな。そして、いつまでもいつまでも、この限りない言葉の宇宙の中で、照れずに、茶化さずに、とっておきの「言葉」をつかまえ続けてほしいな・・・そう心から願った、夏の一日でした。

(2011.9.7)

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