第21回「なまえ」のひみつ

女優の室井滋さんをご存知でしょうか。

室井さんが自身の体験を描いた「しげちゃん」という絵本があります。

「しげる」という男の子みたいな名前のせいで、室井さんは幼少の頃、友達からからかわれ、ずいぶんいやな思いをしたのだそうです。

「ねぇ、お母さん、わたし、じぶんの名前、キライ! もっとかわいい名前にかえてよ。」

そう言って泣きべそをかくしげちゃんに、お母さんは「しげる」という名前の由来を話します。

「滋」という字にはよいことも、悪いこともなんでも勉強になって、栄養がいっぱい!という意味があること。そして、体が弱くて、亡くなってしまったお兄ちゃんの分まで生きてほしいという両親の思いが込められていること。

初めて、名前には「願い」が込められていることを知ったしげちゃんは、少しずつ、少しずつ自分の「名前」と向き合っていきます。そんなしげちゃんと、両親の深い愛情にホロリとくる、素敵な物語です。

 

今回は、この絵本を題材に、子どもたちの「名前のひみつ」をさぐっていく…そんな授業を行いました。

まずこの絵本を読み聞かせると、しげちゃんが入学式の日、男の子のだと間違えられる場面や、からかった替え歌を歌われる場面で、

「わたしもこういうことあったー。」「読み方、いつもまちがえられていやだった。」…等、自身の体験談がたくさん出てきました。意外にも、「自分の名前、嫌だなあ。」と一回でも思ったことのある子は多かったです。

 

 そして黒板に、クラス全員の名前を漢字で書いていきました。いつも何気なく呼び合っている仲間の名前ですが、

「この漢字なの!?」「ひらがなだったの??」「何て読むの??」

とみんな興味津々。お互いに、名前を読みながら、

「きっと、こういう意味があるんじゃないかな??」

と名前の由来の大予想が繰り広げられました。 

 

その後、子ども達に内緒でお父さん・お母さんにお願いしていたお手紙を開封。

開封するときの子ども達のうれしそうな表情はお父さん・お母さんにも見ていただきたかったです。

手紙に書いていただいたのは、名前の由来、その名前に込めた想い。とっても照れくさそうにクラスのみんなの前で朗読する子ども達。読んでいる本人も、聞いている友達たちも、みんながあたたかな空気に包まれました。大切な大切なクラスの仲間の名前の由来を、みんなで共有できた、そんな貴重な時間になりました

 

一人一人につけられた「名前」。それは、ご両親の「幸せになってほしい」という子ども達への想いの結晶でした。

「お父さん、お母さん。夜寝ずにずっと必死に名前を考えてくれてありがとう。」

「ぼくの名前をつけてくれてありがとう。幸せになれるような名前をつけてくれてありがとう。」

「今の自分の名前が一番気に入っているよ!わたしは名前のようになるためにこれからもがんばるね!これからも明るい私でいるからね!」

子ども達がご両親に書いた返事には、初めて知った自分の名前の意味への驚きとともに、素直な感謝の気持ちがたくさん綴られていました。

 

「たくさんたくさん考えてつけてもらった名前。適当につけました、なんて名前は一つもなかったね。

みんなが将来、お父さん・お母さんになった時にはどうしよう?どんな名前をつけたいかな?」

「名前大辞典」を手渡し、子ども達にそう問いかけました。

「男の子は思春期が大変そうだから女の子がいいな。」「オレは絶対男の子がいいな!」

未来の小さなパパ・ママ達は辞典を片手に大奮闘です。

 

ほんの一部ですが、子ども達が考えた名前を紹介します。

 

雪(ゆき)ちゃん     白い雪みたいに、心が白い子になってほしい

愛花(あいか)ちゃん   愛、はみんなに愛されるように。花、花のようにきれいで美しくなるように

笑美里(えみり)ちゃん  笑…どんな時でも笑顔で 美…目をみはるように美しい 里・・・一つ一つを細かくする

夢有人(むうと)くん   夢を追い続ける人になってほしい  

ないきくん        ギリシア語でナイキ、は勝利の女神という意味。勝利の女神が微笑む人になってほしい

結乃(ゆの)ちゃん    絆が結びつくように。 

ルビーちゃん       美しいほどに輝いてほしい

賢美(さとみ)ちゃん   私のお父さんとお母さんの名前から一文字ずつ。

 

漢字の意味を発見したり、新たな読み方を知ったり…。

「一」   と書いて「はじめ」と読むことを知った女の子は、その名前がとっても気に入った様子。

そこでふと一言。「でも、先生、ちょっと手抜きかなあ?」

話を聞くと「一」という字があまりに簡単だから、手抜きだと思われるんじゃないかと心配になったのだそうです。

そんなふうに悩む様子が可愛くて、思わず笑ってしまいました。

 

 

たった数文字。されど数文字。

でも、そこには数えきれないくらいのさまざまな気持ちが込められています。

「名前って一人一人の個性が出るね。」「名前って一生せおっていく大切なもの。」

という子ども達の声が心に残ります。

固有名詞のついた一人一人のかけがえのない人生。

大切な名前をともに、たくさんの幸せを感じながら生きていってほしいと思います。

(2013.01.25)

コラム