第32回 大好きな絵を見つけよう ~秋の課外授業~

美術館通りのイチョウの木が、黄金色に色づき始めました。

ぬけるような青い空とイチョウ並木のその色彩が、なんとも美しい季節です。



10月17日。山梨県立美術館へ秋の課外授業に出かけました。

昨年も子ども達を見てくださった五味先生。

アートカード「みるえ」を使って、今年も素敵な授業をしてくださいました。



山梨県立美術館が所蔵する、絵や彫刻60点あまりが印刷された「アートカード みるえ」。

二枚の絵を見比べて、似ている点を探すという練習をしたあとに取りくんだのが

「みるえカルタ」です。

一人一枚配られたカードの絵や彫刻から読み取れる情報を、次々にメモをしていきます。

色や形、香りや音。描かれた人物の表情や気持ち。そこに存在しそうな物語。

一枚の絵からさまざまなイメージを広げていきます。

そしてそれを「読み札」として文章化します。



4年生の女の子はこの絵を見て、こんな読み札を作りました。

 

woman.jpg「ひと仕事 終えたダンナとティータイム」

ダンナさんはこの絵の中には描かれていません。

しかし、食べかけのお皿にぶどうのかわ、もう一つのカップ、

そしてパイプがあることを絵から発見した彼女は、

「きっとこの人の向かい側にはダンナさんがいる!」と思ったのだそうです。

 

 

 


kenta.jpg「ケンタウロス じゅんびたいそう 気持ちいい」

美術館の外にあるこの像。

どうしてこんなに足を曲げてるのかな?

体がやわらかそうだな、

わかった!準備体操してるんだな・・・

ユニークな発想です。




apple.jpg「なかみは何だ、あなだらけ

 中が気になる なんだろう」

みんながよく知っている芝生広場のこの彫刻。

たくさんのあなのその中が気にかかる気持ちがよくわかります。


いざカルタ大会が始まると、子ども達は真剣そのもの。

自分の読み札を読まれたときのうれしそうな顔。そして「ぼくはこの絵だと思ったんだけどなー。」と自分の感じ方以外の何かに触れた時の驚きの顔。みるえカルタを通して、絵に込められたメッセージを、一人一人が想像することができました。

karuta.jpg


  そして、その後はいよいよ展示室へ。今日は「ピカソ展」も鑑賞しました。


「好きな絵は何?」

と聞かれてとっさに答えられる人はきっと少ないでしょう。

しかし、子ども達にはどうしても観たい絵が、このときすでにいくつかあったのです。

多くの子どもたちが、先ほどのカルタで読み札を作った絵を、一生懸命探していました。

壮大な実物の絵を前に、カードではわからなかった細やかな筆使いや色の違いに気づき、感動。「触らないでね。」と注意を受けてしまうほどその絵に近寄って、目をこらして観ている姿が、

とても印象的でした。

そしてもう一つ。五味先生が

「この白い花の彫刻が、あれっ?という場所に展示してあるよ。探してみてね。」

と教えてくださった 須田悦弘氏・作「辛夷(こぶし)」。

それは、本当に、気をつけて観なければおそらく通り過ぎてしまいそうな、意外な場所にありました。

宝物を見つけたかのように「あった!あった!!」とものすごいオーバーアクションで教えてくれる子ども達(おしゃべり禁止なので!)きっと館内のお客さんたちは「????」と思われたことでしょう。


私達大人は、自分の知らないこと、知識のないことに対して「絵はあまりよくわからないから。」と言ってしまいがちです。でも、こんなふうに、今目の前にある絵や作品に、心を躍らせることができたなら、それは何よりも幸せなことなのではないでしょうか。

もちろん、一つ一つの作品には作者が込めたメッセージがあります。

しかし、その「答え」を語るよりも、まず作品を知りたいという気持ち、作品を観てみたいと思う気持ち。そして何より、そういった作品に触れることが「楽しい」と思う気持ちを育ててあげることの方がはるかに大切なことのような気がするのです。

「知る」ことは「感じる」ことの半分の重要ではない

「沈黙の春」「センス・オブ・ワンダー」等の名著を残した生物学者、レイチェル・カーソンの言葉です。幼い心に刻まれていく、すばらしい光景や、友だちと分け合った喜びの記憶。

1つの答えにいきつくまでのワクワクを、もっともっと高めてあげられたなら、子ども達が本来持っている優れた能力も、やわらかな感受性も、最大限に引き出していけると私は思っています。


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お昼からは、お待ちかねのお弁当を食べて、野外で秋をさがしました。

芝生に寝っころがって空を見上げている子、赤や黄色の落ち葉を投げ合って遊ぶ子、

芝をごろごろ転がる子、ひたすらドングリをひろっている子。

春・夏と描いてきた詩集。あとは冬を残すのみです。

慌しい日常の中で、あっという間に季節は移ろってしまいます。

色づいていく山々の景色をどうか見逃さず、お子様と一緒に秋を感じてみてください。



もみじ みつき・作


みんながきれいって言うから

はずかしくて

赤くなった

秋って楽しいな

みんながおかしを食べてたから

食べたくなった

食べたいのに

みんなくれない

おこって

赤くなった




とんぼ



そよ風の中 

気持ちよさそうにとんでる

ぼくもとんぼのように

とんでみたい

今日はいい天気




秋の風   

 
あたたかい風 ふいている

すると木がおどりだす

それに合わせて

どんぐりや落ち葉たちも歌いだす

気持ちのいい季節がやってきた




今年度も素晴らしい授業を通して、子ども達が絵にふれるきっかけを作って下さった五味先生。

本当にありがとうございました。

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