第12回「読書感想文から得られること」

 

今年もまた、読書感想文の季節がやってきました。
「先生、熱帯魚を飼い始めたの。さかなの本を読んで書きたい!」「小さいときからゴルフやってるからダイガー・ウッズの本がいい。」「お茶を習ってるから、千利休の本を読みたい。」・・・。
子どもたちからは、いろいろなリクエストが飛び出します。「まかせといて!ピッタリの本を選んでくるからね~!」とこたえるものの、実のところ、それからはもう必死です。いろいろな図書館を巡り、図鑑から物語までさまざまな本に目を通し、本の選定をしていきます。最近、忙しさを言い訳になかなか読書に時間をかけられない私にとっては、読書量がいつもの倍くらいになります。そして、こういう機会でもなければ自分からは読まないであろう本に出会えることがしばしばなのです。この夏は、まったく知らなかった茶道やゴルフ、モーツァルトなどなど・・・新しい世界をたくさん知ることができました。子どもたちにはあらためて感謝です。
 
読書感想文を書くときに、一番たいせつなのは「その本が自分にピッタリあっているかどうか?」ということです。海が好きな子は海の生き物の話を、サッカーをやっている子はサッカー選手の自伝を、吹奏楽部でがんばっている子は、音楽に関する本を・・・。その本の内容が、いかに自分の「体験」にリンクさせることができるか、ということが一番重要になってきます。「感想文」とは名ばかりで、実際のところは「体験作文」と言っても過言ではないのです。その子にしか書けない体験を書く中で、その本から考えたことがより説得力を持ちます。
 また、逆の方法もおすすめです。本を読んでから体験する、という方法です。「カブトムシ」の物語を読んだから実際にカブトムシをとりに行ってみる、「戦争」の本を読んだから、おじいちゃんやおばあちゃんに戦争の話を聴いてみる――。そうすると、この本で学んだ知識が「体験」とガッチリ結びつき、自分の力で理解する力がつきます。昨年、映画で話題になった「星になった少年」を読んだ男の子が、この夏休みに家族で千葉県にある「市原ぞうの国」へ出かけ、実際にぞうに触れ、乗ってみるというとっても貴重な体験をしてきてくれました。その男の子は目をキラキラさせて、ぞうの話を聞かせてくれました。この体験からぞうが大好きで、最年少でぞうつかいになったこの物語の主人公に、思いを馳せることができたのではないでしょうか。もちろん、感想文は彼にしか書けない、すてきなものになりました。
今年の1・2年生の課題図書は「ぼくのパパはおおおとこ」という本でした。
「ぼくにはだいすきなおおおとこのパパがいる。パパのくしゃみはたいふうみたい。
サッカーのキックはおつきさまにとどくほど。ぼくがこわいときはいつだっておおきなうででぎゅうっとだきしめてくれるんだ。 きみのパパもおおおとこかな。」――――。とっても短い文章の中に、「ぼく」の「パパ」を見つめる眼差しと、「パパ」の「ぼく」へのほんわかとした愛情がつまっているステキな絵本です。子どもたちには「パパにおんぶとだっこと肩車をしてもらっておいでね!」と宿題を出し、授業を行いました。
 ディスカッションが始まると、子どもたちは口々に話してくれました。「パパの肩車は高くて、ずーっと遠くの景色が見えた!」「パパの肩はボコボコしてた。」「パパのたばこのにおいがした。ぼく、パパのたばこのにおい、好きなんだ。」・・・。スキンシップをとることから生まれる「五感」を使った表現の数々が、子どもたちの文章をより生き生きとさせます。その後は、「ぼくのパパは虫とりの名人なんだ、私のパパはケーキを作るのが上手なんだよ、ぼくのパパはこのまえ、竹を切って流しそうめんを作ってくれたよ」とみんなのパパ自慢がとまりませんでした。
 重い米俵をひょいっとかつぐ姿、田んぼで汗を流す姿、丸い木をなたであっという間に断ち切ってしまう姿・・・。子どもたちにとって、父親は力持ちでなんでもできる、あこがれの存在でしたが、戦後、男性の職場が都会に移ると、働く父親の姿は直接、子どもたちの目に触れることはなくなり父親の役割が崩壊していった・・・とよく言われています。父親不在という言葉が、現代社会の抱える問題として注目を集めた時期もありました。
でも、今回、この本を使って子どもたちとじっくり話をしてみて、父親という存在が母親とは違った、特別な居場所であることがよくわかりました。母親よりもなんだかゆとりがある、ほわーんと大きな存在のような気がしたのです。(ママの方がこわい!と答えた子どもがほとんどでした 笑)確かに、時代の流れとともに「勇ましい・強い」父親像ではなく「おもしろい・やさしい」父親像に変化してきているのかもしれません。この変化には賛否両論があるでしょうが、気負うことなくその家族の中でお互いが役割を果たしていけたら、きっとみんなが幸せに暮らせるのではないでしょうか。すべての子どもたちにとって、パパはきっと「おおおとこ」のはず。子どもたちの作文を読んだお父さん方は、きっとうれしくてたまらないだろうな・・・、そう感じた読書感想文講座の一コマでした。
 
読書感想文は子どもたちにとっては難しく、敬遠されがちな課題です。また、子ども以上にお母さん方が頭を悩ませてしまう課題のひとつでもあるようです。でも、もっと楽に考えてみてください。その1冊の本との出会いを楽しむゆったりとした気持ちを持てたら、子どもたちの世界を広げていける大きなチャンスがあります。
私は、子どもたちにもお母さん方にも必ずいつも伝えます。うまい文章でなくてもOK!その子らしいキラリと光る文章が一文でも書けたなら、大きな意味があるんです、と。あまりきりきりせず、お子様といっしょに、どうか一冊の本の世界を楽しんでみてください。
2007.8.16

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